2025/07/05 07:00

【後編】店主インタビュー|「通販でも“宿の味”を届けたい」──金目鯛しゃぶしゃぶ専門店こころねの挑戦

(本記事はグルメ雑誌『味めぐり』2025年9月号「伊豆・金目鯛特集」掲載予定の取材に基づいて構成しています)


前編では、「金目鯛の宿こころね」店主・岸本昭男さんが「金目鯛しゃぶしゃぶ」にたどり着いた背景や、宿での提供までの試行錯誤についてお届けしました。

後編では、通販・お取り寄せ商品化の苦悩と工夫、お客様からの反応、そして今後の目標についてさらに深くお話を伺います。


■ 「宿の味を自宅でも」──通販サイト立ち上げのきっかけ

――しゃぶしゃぶを通販商品として販売しようと思ったきっかけは?

きっかけは、常連のお客様の一言でした。

「このしゃぶしゃぶ、自宅でも食べられたら嬉しいのに」

旅館の厨房では、毎回ベストな状態で出せても、冷凍・解凍を経て自宅で調理するとなると話は別
魚の鮮度、スライスの厚み、出汁の安定性、梱包や配送方法まで、すべてを見直す必要がありました。


■ 商品化の壁は“鮮度と再現性”

旅館では、厨房でその場でさばいた金目鯛を使えますが、通販では冷凍・輸送・保管というステップが加わります。

これにより、

  • 解凍後の食感が落ちる

  • 水分が抜け、身が割れやすくなる

  • 出汁とアラのバランスが不安定になる

などの課題に直面しました。

「宿と変わらない味と満足感」を届けるために、地元加工業者と協力して真空冷凍技術やパッケージの見直しを繰り返しました。
完成まで、2年近くかかりましたね。


■ 初めて届いた、お客様の手紙に涙した日

――商品化して一番うれしかった出来事はありますか?

忘れられないのは、通販開始してすぐに届いたお手紙ですね。80代のご婦人からでした。

「病気で旅行に行けなくなってしまいました。でも、このしゃぶしゃぶを食べた時、あの旅館の思い出がよみがえりました」

読みながら、泣いてしまいました。
**“料理って、人の記憶を動かすものなんだ”**と、改めて実感しました。


■ ギフト需要が拡大|“贈りたい味”になるまで

ありがたいことに、しゃぶしゃぶセットは今では贈答用(お中元・お歳暮・内祝い)としても選ばれる商品になりました。

  • のし・メッセージカード対応

  • 上品なギフト梱包

  • 法人ギフトのご相談にも対応

など、“宿の心づかい”をそのまま通販にも活かしています。

そして2025年、ついに「日本ギフト大賞 静岡県賞」を受賞。
この受賞は、まさにお客様と共につくりあげた成果です。


■ 今後の展望|「伊豆の価値を、全国へ」

――これから、どんな目標を持っているのでしょうか?

大きな宿にしたいとは思っていません。
ただ、**“小さいけれど本物を届ける宿とショップ”**でありたい。

具体的には…

  • 金目鯛しゃぶしゃぶの定期便・サブスク化

  • 伊豆の他の食材とのコラボ(伊豆わさび・地酒など)

  • ECでの購入体験の改善と、旅館との連携強化

  • 英語対応を含めたインバウンド向け展開

“食”と“想い”をつなぐ場所として、こころねを進化させたいですね。


■ 最後に|こころねが大切にする“おもてなし”の本質

「おもてなし」って、難しい言葉のようで、実はシンプルだと思っています。
“相手のことを思って、手間を惜しまないこと”

旅館でも、通販でも、相手の顔は見えないけれど、
「この一品が、今日の会話の真ん中にあればいいな」
「この贈り物が、誰かの心をあたためますように」

そんな思いを込めて、これからも金目鯛を扱い続けていきたいです。


▼取材協力

金目鯛の宿こころね
静岡県伊東市宇佐美
https://cocorone.jp/

金目鯛専門店こころね(通販サイト)
https://kinmedai.official.ec/


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